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新潟地方裁判所 平成10年(行ウ)4号 判決 1999年11月29日

原告

小川一雄

右訴訟代理人弁護士

宮澤正雄

被告

高田税務署長 藤巻克夫

右指定代理人

戸谷博子

小山博実

星野一雄

小島一俊

鈴木次男

吉村正志

渡邊雅行

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が原告に対し平成六年五月二四日付けで行った平成三年分の所得税の更正処分及び重加算税賦課決定処分(平成七年五月三一日付け更正処分及び重加算税の変更決定処分による減額後の額)のうち別表1の原告主張額欄記載の各金額を超える部分を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  本件課税処分の経緯

原告は、平成三年分の所得税について、別表2の確定申告欄並びに修正申告1及び2欄記載のとおりの確定申告及び修正申告をしたところ、被告は、平成六年五月二四日、同表の更正・決定1欄記載のとおりの更正処分及び重加算税賦課決定処分をした。

原告は、これを不服として、平成六年七月二五日、異議申立てをしたところ、三か月を経過しても異議申立てについての決定がなかったため、同年一二月一九日、国税不服審判所長に対し審査請求をしたが、同所長は、平成一〇年一月二六日、右請求を棄却する旨の裁決をした。

なお、その間、被告は、平成七年五月三一日付けで別表2の更正・決定2欄記載のとおりの更正処分及び重加算税の変更決定処分をした(以下、平成六年五月二四日付け更正処分(平成七年五月三一日付けの更正処分による減額後のもの)を「本件更正処分」といい、同日付け重加算税賦課決定処分(平成七年五月三一日付け重加算税の変更決定による減額後のもの)を「本件賦課決定処分」といい、両者を併せて「本件課税処分」という。)。

2  本件課税処分の違法性

しかし、本件課税処分のうち、別表1の原告主張額欄記載の各金額を超える部分は、原告の所得を過大に認定した違法なものである。

3  よって、原告は、被告に対し、本件課税処分のうち、原告主張額を超える部分の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の主張は争う。

三  抗弁(本件課税処分の適法性)

1  本件更正処分の算出根拠

原告の平成三年分の総所得金額、分離長期譲渡所得の金額、分離株式等の譲渡所得の金額及び納付すべき税額の算出根拠は次のとおりである。

(一) 所得金額

(1) 総所得金額 九九二六万九五一八円

右金額は、次のアないしエの合計額から、所得税法六九条(損益通算)、所得税法施行令一九八条(損益通算の順序)三号及び租税特別措置法三一条(長期譲渡所得の課税の特例)四項二号の規定により、オの金額を控除した金額である。

ア 事業所得の金額 一五三九万〇三八四円

イ 配当所得の金額 二〇〇〇円

ウ 給与所得の金額 五三八万五〇〇〇円

右アないしウの金額は、原告の申告額である。

エ 雑所得の金額 八〇〇〇万〇〇〇〇円

右金額は、次の(ア)から(イ)を控除した金額である。

(ア) 雑所得の収入金額 九〇〇〇万〇〇〇〇円

原告は、丸澤勇が、その所有する別表3の土地(以下「本件水瀁土地」という。)及び別表4の土地(以下、本件水瀁土地と併せて「丸澤所有地」という。)を株式会社東栄不動産(以下「東栄不動産」という。)へ売却する際(以下「本件土地取引」という。)丸澤に代わってその交渉に当たったが、その際、東栄不動産から、謝礼として、平成三年二月一八日ころに二〇〇〇万円、同年八月一二日に七〇〇〇万円の謝礼金の支払いを受けた。右金額はその合計額である。

(イ) 雑所得の必要経費の金額 一〇〇〇万〇〇〇〇円

右金額は、原告が、平成三年二月二六日、原告に協力して本件土地取引の交渉に当たった細谷光男に対し、原告が東栄不動産から(ア)の謝礼金二〇〇〇万円を得たことに対する謝礼として支払ったものである。

なお、原告は、平成二年一〇月三〇日においても、細谷に対し、一八六五万三三〇〇円(以下「本件金員」という。)を交付している。しかし、本件金員は、当初、丸澤と東栄不動産との間で、丸澤所有地と別表5の土地(以下「本件蟹池土地」という。)とを交換し、東栄不動産が丸澤に五七八一万一四〇〇円を補足金として支払うこととされていたところ、その後、細谷が東栄不動産と交渉した結果、東栄不動産が支払うべき補足金が四八六五万三三〇〇円増加し、一億〇六四六万四七〇〇円となったことに対する謝礼の趣旨で交付したものである。したがって、その負担は丸澤に帰属するもので、原告は丸澤の代理人として同人に代わって支払ったにすぎないのであるから、本件金員は原告の雑所得の必要経費とはならない。

オ 分離長期譲渡所得の金額 △一五〇万七八六六円

右金額は、原告の申告額である。

なお、金額の「△」は負数を表す。

(2) 分離株式等の譲渡所得の金額 八八二一万二〇〇〇円

(二) 所得控除 二二七万三四六〇円

右金額は原告の申告額である。

(三) 課税所得金額

(1) 課税総所得金額 九六九九万六〇〇〇円

右金額は、(一)(1)の金額から右(二)の金額を控除した金額(国税通則法一一八条の規定により一〇〇〇円未満の端数を切り捨てた金額)である。

(2) 課税分離株式等の譲渡所得の金額 八八二一万二〇〇〇円

右金額は、(一)(2)の金額(国税通則法一一八条の規定により一〇〇〇円未満の端数を切り捨てた金額)である。

(四) 納付すべき税額 六一九一万七七〇〇円

右金額は、次の(1)及び(2)の合計額から(3)及び(4)の合計額を控除した金額である。

(1) 課税総所得金額に対する税額 四四五九万八〇〇〇円

右金額は、(三)(1)の金額に、所得税法八九条(平成六年法律第一〇九号による改正前のもの)に規定する税率を適用して算出した金額である。

(2) 課税分離株式等の譲渡所得の金額 一七六四万二四〇〇円

右金額は、(三)(2)の金額に、租税特別措置法三七条の一〇(平成七年法律第五五号による改正前のもの)に規定する税率を適用して算出した金額である。

(3) 配当控除の金額 一〇〇円

右金額は、原告の申告額である。

(4) 源泉徴収税額 三二万二六〇〇円

右金額は、原告の申告額である。

2  本件更正処分の適法性

平成三年分の所得税について、原告が納付すべき税額は、六一九一万七七〇〇円であり、右金額は本件更正処分により納付すべき税額と同額であるから、本件更正処分は適法である。

3  本件賦課決定処分の根拠

原告は、1(一)(2)の株式売却の際、架空の領収証を作成させ、また、1(一)(1)エ(ア)の本件土地取引に関する謝礼金の受取りの際に領収証を発行しないなどして所得を隠ぺい又は仮装して分離株式等の譲渡所得及び雑所得を申告しなかったものであるが、右行為は国税通則法六八条一項の「隠ぺい又は仮装行為」に該当することから、被告は、本件賦課決定処分をした。

なお、重加算税の額は一四四八万六五〇〇円であり、右金額は、前記1(四)の納付すべき税額六一九一万七七〇〇円から、本件更正処分前の納付すべき税額二〇五一万八一〇〇円を控除した金額四一三九万円(国税通則法一一八条三項の規定により一万円未満の端数を切り捨てた金額)に対し、国税通則法六八条の規定に基づき一〇〇分の三五の割合を乗じて計算した金額である。

4  本件賦課決定処分の適法性

平成三年分の重加算税の額は、本件賦課決定処分と同額であるから、本件賦課決定処分は適法である。

四  抗弁に対する認否及び反論

抗弁のうち、雑所得の必要経費として本件金員を計上しない所得金額の計上、課税所得金額の算出及び重加算税の算出は否認し、その余の所得金額の計上、課税所得金額の算出及び重加算税を付加する処理は、いずれも認める。

以下の理由により、本件金員は雑所得の必要経費として計上されるべきものである。

すなわち、原告は、本件水瀁土地に売買予約を原因とする所有権移転請求権仮登記(以下「本件水瀁土地仮登記」という。)を有していたが、東栄不動産から同土地の売却を要請されたことから、代替地の提供を受けることを条件として同社と交渉を行うこととし、細谷に協力を依頼した。その結果、原告は、代替地として本件蟹池土地を取得できることとなったことから、平成二年一〇月二九日、本件水瀁土地仮登記を抹消するとともに、本件蟹池土地に、原告を権利者とし、売買を原因とする条件付所有権移転仮登記を経由し(以下「本件蟹池土地仮登記」という。)、その翌日である同年一〇月三〇日、本件蟹池土地仮登記を得た謝礼として、細谷に本件金員を支払った。その後、原告は、東栄不動産の請求により、本件蟹池土地仮登記の抹消を承諾することとし、平成三年八月一二日、その旨の登記手続をし、その対価として東栄不動産から七〇〇〇万円を受領した。

このように、本件金員は、細谷の交渉によって原告が本件蟹池土地仮登記を得たことに対する謝礼として支払われたもので、後に原告が本件蟹池土地仮登記抹消の対価として東栄不動産から得た七〇〇〇万円の雑所得の発生のもととなったものであり、その負担は原告に帰属する。したがって、本件金員は、雑所得の必要経費に当たる。

被告は、本件金員の負担は丸澤に帰属する旨主張するが、丸澤は、東栄不動産に対し、丸澤所有地を、近隣地権者と同様の坪当たり九万円で売却したにすぎず、細谷が交渉したことによって一切の利益を受けていないのであり、丸澤が細谷に謝礼金を支払う理由はない。

理由

一  請求原因について

請求原因1の事実については当事者間に争いがない。

二  抗弁について

1  抗弁事実中、雑所得の必要経費として本件金員を計上しない所得金額の計上、課税所得金額の算出及び重加算税の算出を除くその余の部分については当事者間に争いがない。

そこで、本件金員が雑所得の必要経費に当たるか否かについて判断する。

2  成立に争いのない甲第四、第五号証、第七ないし第九号証、乙第一ないし第一〇号証及び第一二ないし第一四号証並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(一)  丸澤は、丸澤所有地を所有していたものであるが、平成元年ころ、東栄不動産は、周辺地域の土地の買収を始め、丸澤所有地についても買収の対象とし、丸澤の財産を管理していた池嶋義和を相手方として交渉を進めていたところ、原告は、平成二年三月二二日、本件水瀁土地につき、原告と丸澤の間で売買予約が行われた事実がないにもかかわらず、本件水瀁土地仮登記を経由し、以後、原告は、丸澤の代理人として、かねてより事業経営のアドバイスを受けていた細谷と共に、東栄不動産と本件土地取引の交渉を始めた。

(二)  原告及び細谷は、東栄不動産に対し、本件水瀁土地の売却の条件として代替地の提供を要求し、東栄不動産もこれを受け入れ、かねて東栄不動産が渡辺五作から買収していた本件蟹池土地を代替地として提供することとし、原告の東栄不動産は、丸澤と東栄不動産との間で、丸澤所有地と本件蟹池土地とを交換し、東栄不動産が丸澤に五七八一万一四〇〇円の補足金を支払うことで一旦合意し、原告が口述した合意内容を山崎晃司司法書士事務所次長高野新平が手書きして、確約書と題する書面(以下「本件手書き確約書」という。)を作成した。

東栄不動産代表取締役金子福三郎こと金福鎬(以下「金子」という。)は、東栄不動産事務員小林千恵子に本件手書き確約書をワープロで浄書するよう指示したが、その際、小林は、右補足金の支払いについて、当事者の表示が誤記により逆になっているものと誤解し、丸澤が東栄不動産に前記補足金を支払うものとしてワープロで浄書した。

平成二年八月六日、交渉のため細谷と共に東栄不動産事務所を訪れた原告は、右ワープロで浄書した確約書の内容に不満を申し立てたが、細谷が東栄不動産と交渉した結果、右内容に「東栄不動産が丸澤に一億六四二七万六一〇〇円を支払う」旨の付則第一条を加えることで合意し、同日、右付則第一条を加えた確約書(以下「本件確約書」という。)を作成し、原告が丸澤に代わって署名押印した。また、同年一〇月四日には、本件確約書の履行につき、丸澤が東栄不動産に支払うこととされた補足金五七八一万一四〇〇円と付則第一条によって東栄不動産が丸澤に支払うこととされた一億六四二七万六一〇〇円とを相殺し、東栄不動産が丸澤に対し、同年一〇月二三日までに差額金一億〇六四六万四七〇〇円を支払う旨の覚書(以下「本件覚書」という。)が作成され、これについても原告が丸澤に代わって署名押印した。これら合意により、丸澤所有地と本件蟹池土地とを交換するため、東栄不動産は丸澤に対し、一億〇六四六万四七〇〇円を平成二年一〇月二三日までに支払い、その段階で原告は本件水瀁土地仮登記の抹消に協力するとともに、丸澤所有地に東栄不動産を権利者とする仮登記を経由し、本件蟹池土地に丸澤を権利者とする仮登記を経由することとなった。

東栄不動産は、平成二年一〇月二二日、右合意に従い、有限会社千歳不動産を介して、右差額金一億〇六四六万四七〇〇円を額面一億〇六四一万四八五〇円の小切手及び現金四万九八五〇円で原告に交付し、原告は丸澤名義の領収証を発行した。右小切手は、同年一〇月二二日、糸魚川信用組合上越支店において支払いのため呈示され、同月二三日、同支店の原告名義の普通預金口座にその額面金額が入金された。

(三)  ところが、原告は、丸澤に代わって右差額金を受領したにもかかわらず、本件水瀁土地仮登記の抹消に協力しなかった。東栄不動産は、土地買収計画の破綻を憂慮し、原告に対し、本件水瀁土地仮登記の抹消を求めたが、これに対し、原告及び細谷は、原告に裏金を支払うこと及び本件蟹池土地仮登記を経由することを要求した。金子は右要求に直ちには応じなかったが、金子に代わって原告及び細谷との交渉に当たった千歳不動産社員小玉敬重は、これを受け入れ、同年一〇月二六日本件水瀁土地仮登記抹消協力等の謝礼として、原告に対し、二〇〇〇万円を支払う旨の「念証」を作成した。原告は、二〇〇〇万円の支払を受ける旨の確約が得られたことから、本件水瀁土地仮登記抹消に協力することとし、同月二九日、本件水瀁土地仮登記は抹消され、同時に、東栄不動産は本件蟹池土地仮登記手続に協力し、同仮登記が経由された。

(四)  同月三〇日、原告は、前記(二)の糸魚川信用組合上越支店の原告名義の普通預金口座から一八六三万〇三〇〇円を同支店の原告名義の当座預金口座に振り替え、これを原資として本件金員を細谷に交付した。なお、原告の細谷に対する本件金員の交付は細谷の原告に対する請求に応じてのものであるところ、細谷のセールスダイアリーには、次の計算式の記載がある(乙第一一号証)。

48,653,300×1/2=24,326,650

△18,653,300

5,673,350

(五) 平成三年二月一八日ころ、東栄不動産は、原告に対し、前記(三)の「念証」に従い、仮登記抹消協力等の謝礼金の趣旨で、現金二〇〇〇万円を支払った。原告は、右二〇〇〇万円を、同月二一日、日本興業銀行富山支店において、無記名割引債券の購入資金に充てて秘匿した。

同月二六日、原告は、右謝礼金を受領できた謝礼として、細谷に対し、額面一〇〇〇万円の小切手を交付した。

(六) 東栄不動産は、その後、丸澤所有地と本件蟹池土地を確保するため、細谷との間で、本件蟹池土地仮登記の抹消と丸澤所有地の所有権移転登記手続の交渉を進めたが、細谷は、原告の意向であるとして、本件確約書に基づく合意を解消し、土地残代金のほか裏金として一億二〇〇〇万円を支払うよう要求し、最終的に、東栄不動産と原告及び細谷は、東栄不動産が原告に七〇〇〇万円、細谷に二〇〇〇万円を支払うことを合意した。そして、平成三年五月一六日、丸澤と東栄不動産との間で、丸澤所有地を代金二億二〇〇八万七八〇〇円で売買し、東栄不動産が平成二年一〇月二二日に丸澤に支払った一億〇六四六万四七〇〇円を契約内金とし、残額一億一三六二万三一〇〇円を平成三年七月三一日に支払う旨の農地売買契約書が作成され、原告が丸澤に代わり署名押印した。

東栄不動産は、同年八月一二日、右契約書に基づき、残金一億一三六二万三一〇〇円を原告に交付するとともに、前記合意に基づき、原告に対し七〇〇〇万円を、細谷に対し前記合意に上乗せをした二一三七万六九〇〇円を支払った。原告は、同日、右七〇〇〇万円を日本興業銀行富山支店において、無記名割引債券の購入に充てて秘匿した。同日、原告は、本件蟹池土地仮登記の抹消に協力し、同仮登記は抹消された。

3 以上認定の事実によれば、<1>当初、原告と東栄不動産の間で、丸澤所有地と本件蟹池土地とを交換し、東栄不動産が丸澤に五七八一万一四〇〇円を補足金として支払うこととされていたところ、その後、細谷が東栄不動産と交渉した結果、本件手書き確約書の内容に付則第一条を加え、東栄不動産が丸澤に支払う金額は、四八六五万三三〇〇円増加し、一億〇六四六万四七〇〇円となったこと、<2>右増加分の四八六五万三三〇〇円と本件金員の額とは一〇〇万円単位以下の端数において完全に一致していること、<3>細谷はそのセールスダイアリーの記載において、右増加分の四八六五万三三〇〇円の半額から本件金員の額を差し引くという形で、本件金員の額を右増加分の金額と関連させて考えていたことが認められ、これらの事実を総合すれば、本件金員は、細谷が東栄不動産と交渉した結果、丸澤が本件土地取引にあたり受領できる金員を増加させたことに対する謝礼の趣旨で、丸澤の代理人である原告から細谷に交付されたものであると推認することができる。

4  原告は、本件金員は、細谷の交渉によって原告が本件蟹池土地仮登記を得、本件蟹池土地の三〇〇坪分を無償で取得できたことに対する謝礼であり、本件金員の支払いが本件蟹池土地仮登記経由の日の翌日であるのはその証左である旨主張するとともに、原告作成の陳述書(甲第一〇号証)及び原告本人尋問において、「細谷は、『ただで蟹池の土地三〇〇坪を取ってやったのだから半分は自分の取り分だ。』と言って、金一八六五万三三〇〇円の謝礼を要求してきた。」旨供述する。

しかしながら、前掲各証拠によれば、原告は、本件土地取引交渉の過程において、自己の事業用地として本件蟹池土地を取得することを強く欲していたこと、本件確約書及び本件覚書成立の時点から、原告及び東栄不動産の間では、東栄不動産が丸澤に対し一億〇六四六万四七〇〇円の差額金を支払った段階で本件蟹池土地に丸澤を権利者とする仮登記を設定することが合意されていたことが認められるところ、これらの事実に照らすと、原告は、前記認定のとおり、細谷から、本件土地取引によって丸澤が受領できる金額を増額させたことに対する謝礼として本件金員の支払いを請求されたものの、単に差額金の支払いを受けただけでは、本件蟹池土地に対する自己の権利が確保されたとはいえないことから、本件水瀁土地仮登記の抹消と引き換えに、権利者が丸澤であるか原告であるかはともかく、本件蟹池土地に対する仮登記が経由されるのを待って、細谷から要求された本件金員を支払うべく考えていたところ、首尾良く本件蟹池土地仮登記が経由されたことから、その翌日に前記3認定の趣旨で細谷に対し本件金員を支払ったものと推察することができる。したがって、本件金員の支払いが本件蟹池土地仮登記経由の日の翌日になされたとの事実は、前記推認を妨げるものではない。

他方、原告の主張によっては、本件金員の金額がなぜ一八六五万三三〇〇円となったかという点について合理的に説明することは困難である。この点、原告は、複雑な計算式を用いてその算出根拠を主張するが、右主張は、事実に基づかない推測が多い上、技巧的に過ぎ、到底合理的なものとは言い難い。また、乙第七号証によれば、本件金員の趣旨について、原告は、平成六年四月三〇日の検察官の取調べにおいては、「東栄との交渉を行った手数料という名目で一、八六五万三、三〇〇万円の支払いを請求された」、「手数料の金額が一、八六五万三、三〇〇円である理由は私には分かりません。」と述べ、本件蟹池土地仮登記取得の謝礼であるなどとは何ら述べていないことが認められるのであり(原告は、その理由につき、原告本人尋問において、本件蟹池土地について正当な理由がないのに原告名義の仮登記を経由したことに対する後ろめたさから正直に述べることができなかった旨述べるが、右の事情は当時捜査機関において既に明らかであったものであり、供述変遷の理由について原告の述べるところは不合理であるといわざるを得ない。)、かかる供述内容の不合理さ、供述変遷の状況に照らすと、本件金員は本件蟹池土地仮登記取得の謝礼である旨の原告の供述は到底信用できない。

さらに、原告は、丸澤所有地の譲渡価格は近隣の土地の売買価格と同額であり、丸澤は細谷の介入によって何らの利益も得ておらず、丸澤が本件土地取引に関して細谷に謝礼を支払う理由はないとも主張するが、既に認定したとおり、細谷が原告に代わって東栄不動産と交渉した結果、丸澤が東栄不動産から受領できる金額が当初の予定より四八六五万三三〇〇円も増額したのであるから、かかる交渉の成果について細谷が丸澤の代理人である原告に対し謝礼を要求するのには十分合理的な理由があるというべきであり、原告の右主張は採用できない。

5  以上認定のとおり、本件金員の負担は丸澤に帰属するものであり、原告は丸澤の代理人として同人に代わって支払ったものにすぎないものと認められるから、本件金員は原告の雑所得の必要経費には当たらないというべきである。したがって、雑所得の必要経費として本件金員を計上しない所得金額の計上、課税所得金額の算出及び重加算税の算出はいずれも適法である。

三  結論

以上によれば、被告の抗弁は理由があり、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 仙波英躬 裁判官 飯塚圭一 裁判官 古谷慎吾)

別表1

<省略>

別表2

<省略>

別表3 水瀁土地

<省略>

別表4 仲沖土地

<省略>

別表5 蟹池土地

<省略>

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